マネキンの目線を感じる娘の心
ピエロのあの顔、少し怖い私は幼いころにサーカスを見に行った夜、怖くて母から離れられずに泣きながら寝た記憶があります。
そんなことを思い出したのは、娘とこないだ買い物に行った時の出来事があってからでした。
デパートに2人で娘と出かけたのですが、娘がデパートの真ん中で立ち止まっているのです。
通行路だったので、邪魔にもなるし、娘にさっさと歩くように話しました。
それでも、ぴたりとも動かず、さっきからただ一点を見つめているのです。
私は何があるのだろうと視線の先に目をやりました。
そこにはマネキンがあったのです。
そして、黒いマネキンと白いマネキンがありました。
目も鼻も口もなく、それは本当に絵本の中に出てくるのっぺらぼうのような感じです。
娘はそのマネキンを黒、白交互に見つめています。
もう一度早く行こうと声をかけようとした時です。
私の足にしがみついて、「こっちを見てる!怖い…!」と小さな声で呟きました。
目のないマネキンを見て、こっちを見てるんなんて言われると私も少し怖くなってしまいます。
抱っこして、その場から遠ざけようとした時ですら、ずっとマネキンを見つめていた娘。
怖いなら見なければいいのに…と思ったのですが、やはり怖いからこそ見てしまうのが人間なのかもしれません。
それからはそのデパートに行こうと誘うと、いやという娘。
確かに白いマネキンならともかく、黒いとびっくりしてしまうのでしょうか。
もちろん、怖いと言った夜は私に離れることなく眠った娘を少し可愛いとも思いました。
祖父母家の物置部屋
祖父母の家には、納戸というものがある。
というより、私がずっと納戸だと思っていたところは、どうやら普通の部屋を潰したものだったらしい。
とにかく、部屋を潰して物置にするくらい、ものが溢れているのが祖父母の家だ。
そこには時代を感じさせる、見たこともないようなレトロ感満載のものがたくさんある。
例えば、一昔前何故か流行った光ファイバーをまりものように差した置物。
電気をつけると、ピンクやパープル、ブルーからグリーンへと次々に色を変えていく。
というだけの代物。
なぜあれがあったのか私は今をもってしらない。
それからどこかの旅先で買ったと思われる人形の置物。
何時買い込んだのか知れない大量のトイレットペーパーとボックスティッシュ。
母に言わせると、何でも買い置きをして置きたがるのが祖母の性質だそうだ。
そして、祖母が和裁をやっていたこともありマネキンがあった。
これが子供の頃とにかく怖くて怖くて仕方なかった。
マネキンには紫の風呂敷がかぶせられていた。
そのせいで却って、この下にどんな姿が隠されているのか怖くて、絶対に風呂敷を取れなかった。
今考えると、のっぺりとした布張りのマネキンに寄せた、子供の想像力のほうがそら恐ろしい。
とにかく、そういういろいろと時間のとまったようなものたちにあふれていたのが、祖父母の家の納戸部屋である。
扉を開けると、私の知らない時間が流れているようで、変に不安になったものだ。
第一、 人形やマネキンのある部屋なんて、いまだってちょっと怖くて入れない。
私はびびりなのである。
という訳で、今でも全然好きではないのがかの家の納戸部屋である。
大晦日にでも片づけを手伝えといわれたら、丁重にお断りしようと思う。