泳げなかった臨海学校

海を心から愛している。
海そのものも、海に生きる生き物達も。
人間も海に生を受けたのだとわかる程エネルギーを感じる海。

しかし私は泳げないのだ。
物理的に泳げないというより、海という底知れないものに恐怖を感じて泳ぐことができない。

記憶は中学生にさかのぼる。
中学生の頃、臨海学校があった。
某県の海辺にある施設に一学年分の生徒が泊まり、なおかつ遠泳を行うという見境のない行事。

その当時でさえ、私は海に入るのが数年ぶりという体たらくだった。
だからもちろん泳げる訳もない。

そんな中で水につかったものだから、まだ足が着くうちはよかった。
ところが、海は往々にして突然深くなるものだ。

そこで急に足が着かなくなった私は気が動転した。
しかもその辺に生えていたわかめに足をとられて更にパニックに陥った。
そして追い討ちをかけるように魚がきらきら光りながら足元をかすめていったのだ。
もはや遠泳どころではない。

私は底の見えない水のかたまりの恐怖に捉われ、もはやその後のことは全く覚えていない。
一体どうやって岸に上がったのか、遠泳はどうなったのか。
思い出そうとしてもまったく覚えていない。
だからおそらくは遠泳なんて代物はやっていないに違いない。

けれども、遠泳を終えた者がご褒美にもらえる葛湯と氷砂糖を食べた記憶があるのだ。
この世のものとは思えないほどおいしい葛湯と氷砂糖。
いまだにそれに勝る甘味を食べていない。

とりあえず今分かっているのは、私がずるをしてそれらをゲットしたということだけだ。
絶対に泳いでいないのだから。
そして、それからずっと、怖くて海に入れないでいる。

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