食わずぎらいのもの
人にはそれぞれ一つくらいは食わず嫌いのものがあるだろう。
私は一つどころではない、沢山食わず嫌いがあるのだが、大抵のものはその見た目に起因する。
例えば、鯛めし。
研いだお米の上に鯛を一匹丸々載せて、御釜で炊く。
そして、その蓋を開けた瞬間、桜色の鯛がほくほくに炊き上がっている。
好きな人にとってはたまらない瞬間にちがいないだろうが、私はあの鯛の白濁した目玉を見た瞬間に、とても食欲どころではなくなる。
野菜に肉、魚どれでも他の生き物の命を頂いていることに変わりないのだが、鯛めしはリアルにそれを感じさせて、罪悪感で食べるどころの騒ぎではない。
とどのつまりは私の偽善という問題にすぎないのだろうけれども、どの道食べられないのだから仕方がない。
同じ理由で鮒の甘露煮もだめである。
並んだ鮒たちが全員私を見てくると、どきどきしまって目を逸らさずにはいられない。
鮎の塩焼きも苦手だ。
あ、鮎は食わず嫌いではないか。
川魚が苦手だというだけだった。
ただ、今までずっと食わず嫌いでいた、同じく白濁した目玉でお馴染みの、蛍烏賊の沖漬けに関しては、勇気を振り絞って食べたら驚くほど美味しかった。
スルメイカの沖漬けと同じ味がして、もともと酒の肴好きなので、すぐに好きになった。
やっぱりちょっと目玉には躊躇するが。
結局は、見た目で苦手であっても口に入れてしまえば分からない、味が好みに合えば食べられるという話のようである。
ひょっとすると鯛めしも好きになるかもしれないとも思うが、今のところは緊迫して食べることを迫られているわけではないので、とりあえず食わず嫌いのものはそのまま寝かせておこうと思っている。